5月11日金曜日、
U::Gen Laboratrium に行った時のこと
ここのところ仕事が不安感を漂わせつつも落ち着いているおかげで、退社後に大崎まで行って
l-e で開かれるライブに行った。というのも、方法マシン時代に交流があった吉原太郎氏と、同じころにアクースモニウム(2個より多いスピーカーを配置する音響作品)を通じて知り合った由雄正恒氏が出演すると知り、これは良い機会といそいそと出かけたのである。
冒頭でリンクしている通り、U::Gen Laboratrium は大谷安宏氏が主催しているイベントとある。私は U::Gen という語からコンピューターで音声を合成するプログラミング言語を連想するのだが、実際は当たらずとも遠からずといった内容で、そんな事より私が仕事の都合で東京に出て来たばかりの頃によく耳にした音楽を多く聴くことが出来て、「そういえば俺、こういう音楽好きなんだった。」と思い出させてくれた。
好きなのを思い出した音楽とは
当時の私は「エレクトロニカ」という大きな括りで聴いていたが、少し詳しくなると「チルアウト」「電子音響」、そして「ミュージック・コンクレート」という語を知るのはもっと後の事である。日常的に聞こえてくる音を録音して素材とし、他の音と重ねたり再生速度を変えるなどの変調を施して、音響で心象風景を描く。とかく人工的な「長調だから明るい/短調だから暗い」曲調とは違う、音から受ける印象にじんわりと沈み込んでいく感じがする。
そんな中、主催の大谷安宏氏が演奏したのは IRCAM が開発したリード楽器の物理モデリング音源を、ボタンが多数配置されたパッドでリアルタイムに演奏するというものだった。これは一転して楽器による即興演奏と言える。Mac でパラメータを処理して音を合成しているので電子音なのだが、その発音原理はあくまでもサックスなどのシングルリードの木管楽器に準じている。見てると必死にボタンを操作しているのだが、音が出たり出なかったり、出たと思ったら耳障りなミスリードの音だったりと、恐らくやってる方も予測不可能なのだろうという展開だった。
それらを通してひとつスッキリしたこと
くどいようだが、私はひとつの事に長く集中して取り組むことが出来ずに、楽器ひとつ取っても電子楽器とアコースティック楽器を行ったり来たりしている。そこには自然にアコースティックかエレクトリックかという分類がついて回る。しかし、エレクトリック楽器においても精神的にはアコースティック楽器として接しているものがある。エレキギターのような弦楽器は元より、シンセサイザーの中でもアナログシンセサイザーや、より生楽器に近いオンド・マルトノという電子楽器も存在する。そのポジションの落としどころが定まらず、楽器が好きな友人知人で集まるといつしか堂々巡りに陥る話題の一つになっていた。
それが今回のライブイベントで、ミュージック・コンクレートと物理モデリング音源の演奏を聴いて、「一度空気を振るわせた事のある音を加工して出す楽器(機材)」と、「発振器から出た振動を加工してから初めて音を出す楽器(機材)」という分け方が出来る事に気がついた。前者はテープレコーダーやサンプラー、PCM音源によるシンセサイザーもこれにあたる。なお、蓄音機なら電気を使わない。後者が問題で、アコースティック楽器にエレキギター、アナログシンセサイザー、オンド・マルトノ、それに PC を使用した DSP も同じ括りに出来るのが大きな意識の変化になった。特に私の場合、シンセサイザーと一口に言えども、アナログの力強い音も、PCM 音源でガムランの音や弦楽器の音を簡単に重ねたり切り替えたりして使えるのも、両方とも魅力を感じている。いざ音を鳴らし始めると割と何も考えてなかったりするけど。
どうせならもうひとつスッキリしたい
「一度空気を振るわせた事のある音を加工して出す楽器(機材)」と書いた方、こちらは端的には「サンプリング」と一言で言い表す事が出来る。一方、「発振器から出た振動を加工してから初めて音を出す楽器(機材)」というのはアコースティック楽器を含むからには「オシレーター」と言うのも無粋で、一言でうまく言い表せない。そこで、どうせ自己満足なんだから言葉も作ってしまえと、録音した音を鳴らす方を「カリフラ楽器」、物体を振動させたりする方を「ブロッコ楽器」と言うことにした。そして、PC のように両方に使えるものは「アブラナ楽器」。私がニコニコと楽器の話をしている間、頭の中ではそういう語で表現していると見て間違いないのであしからず。
追記
「ブロッコ楽器」と「カリフラ楽器」の両方を受け持つ楽器を「アブラナ楽器」としていたが、「ロマネス楽器」に改める。ロマネスコという野菜があるのを知らず、調べてみたらドンピシャで驚いた次第。